Writer: Nico Mira, KASA Sustainability
Translation: Uno Daito, KASA Sustainability
2022年3月15日、上智大学はチュラロンコン大学の社会開発研究センター(CSDS)とともに、「環境オフショアリング」をテーマにしたKASAと連携したシンポジウムを開催した。シンポジウムは、様々な開発政策や二国間及び多国間協定がどのように形づくられているか、そしてそれらの政策や協定が人間と非人間である環境にどのような影響を与えているかに焦点を当て、東アジアの地域主義の文脈において社会と自然の相互依存的な関係を探求しようとした。シンポジウムは、オンラインと対面の両方で参加できるハイブリッド形式で開催された。
開会の挨拶は、本シンポジウムの共催者である上智大学の伊藤毅教授によって行われた。伊藤教授は、シンポジウムの目的は、政治経済学と政治生態学に関する視点の研究が、自然と社会とがどのように相互に作用し多重なスケールの環境を再構築するかについての理解を更に深めていく上でどれほど重要であるかということを確認することだと説明した。環境オフショアリングとは、より明確且つ相関的に一見離れているように思われる空間間の環境の交換を強調するために本シンポジウムで使用された専門用語である。スピーカーは、3つのパネルで、いくつかの異なる角度からアプローチした。
パネル01「東アジアの地域主義における生態学的・経済的つながり」
最初のパネルは、伊藤教授と本シンポジウムの共同主催者のチュラロンコン大学のカール・ミドルトン教授による研究を通して、東アジア地域主義における生態学的・経済的つながりを見た。彼らは、環境オフショアリングは、囲い込み、資源の商品化、資本の拡大を促進するような関係の構築に合わせて、自然と社会の関係を作りなおすプロセスと見なされるべきであると提案した。日本が行うタイへの投資と開発協力の多くは日本の技術とノウハウの移転を含む水管理に関連するプロジェクトに注がれてきた。彼らの論文では、このような日本の投資と開発協力の相関的な分析によってこれを強調している。2011年のタイで起きた洪水は、そのきっかけとなり、タイで活動する数百の日本企業のサプライチェーンに影響を与え、さらなる自然災害から生産現場を保護するために、日本の開発機関によって河川と洪水の管理にますます重点を置くようになったことに加え、日本とタイ両方の民間部門の経済成長目標に役立つ継続的な資本の蓄積のために必要な資源へのアクセスを確保するようになった。伊藤教授とミドルトン教授にとって、これは、新たな国際協力の形が国境を超えたガバナンスを拡張し、地域の経済統合とサプライチェーンに組み込まれているということを表している。
論文の討論者である総合地球環境学研究所(RIHN)のプログラムディレクターである杉原薫教授は、全体として2つの点で貢献し、スピーカーから好評を博した。まず一つ目は、地域的そして地球規模の商品チェーンが環境オフショアリングを推進するものであると仮定すると、産業クラスターがこれらのサプライチェーンを最初に生み出し、それがアジアの(環境)交換のダイナミズムを生む、ということを認識しておくべきだということだ。第二に、アジアの文脈で環境オフショアリングを理解しようとする試みには、都市化がその中で果たす役割も含めるべきであるという点だ。
パネルは、タイのケースを超えた日本の環境オフショアリングの傾向と性質に関する質問で締めくくられた。発表者は、管理と緩和が現在の国際協力のパッケージと見なされるべきであり、日本が経済関係を共有している地域についても同様に見なされると返答した。
パネル02「東南アジアの環境ダイナミクス」
2番目のパネルでは、シンポジウムのテーマを東南アジアの環境ダイナミクスに移し、食品関連のサプライチェーンに焦点を当てた2つのプレゼンテーションが行われた。テネシー大学ノックスビル校のゲラート教授とウェスコンシン大学マディソン校のベアード教授の2人がこのパネルに参加し、両者が互いの論文の発表者と討論者をそれぞれ務めた。
ゲラート教授は、東南アジアのヤシの「廃棄物」の政治生態学に関する研究を最初に発表した。それは、融通の利く商品としてのパーム油の開発を検討することによって、環境オフショアリングのトピックと関連していた。彼は、パーム油のサプライチェーンは、ニュージーランドの酪農事業だけでなく、マレーシアとインドネシアの周辺地域のプランテーションにおける社会生態学の再形成、および、中国の高まる覇権と多極的役割の間の緊張を示していると主張した。前者の2つの国(マレーシアとインドネシア)では、中国の輸入の増加によるパーム油産業が成長する中で、バイオマス廃棄物の増加と森林破壊につながっていったという拡大プロセスが見られる。ニュージーランドでは、中国の乳製品の需要を満たすための中国の投資が、ニュージーランドの農産業の激化に繋がっている。ヤシのバイオマス廃棄物は、同じ競争過程にあり生態学的な因果関係があることから、草の代わりとして、乳牛の一般的な飼料にもなりつつある。再生可能エネルギーとしてのバイオマスへの日本の関心は、パーム油の複雑さとその社会生態学的影響をさらに加速させている。
ゲラート教授のプレゼンテーションに関する以下の議論は、いくつかの興味深い点を提起した。ベアード教授は、「地面」により近いパーム油の影響、つまり自然と社会の関係がどのように変化し、小規模農家の生活や地域の環境にどのような影響を与えたかについて、より詳細に調査することで利益が得られると示唆した。他のパネリストの一人の地球環境戦略研究機関(IGES)のサイモン・オルセン博士も参加し、かなりのメタン排出を伴った、乳製品生産業における食料生産、再生可能エネルギー、気候目標の間の緊張関係について尋ねる前に、この論文にふさわしいタイトルは「西洋型食生活のオフショアリングとそれに関連する問題」である可能性があると簡潔にコメントした。ベアード教授は、世界的に米の消費が増加する中で、食事の東洋化が見られ、メタンの緩和に関する問題と関連している可能性があると指摘した。
それがパネルの2つ目のプレゼンテーションにうまくつながり、ベアード教授は、有機米の様々な認証と、タイとラオスの低地栽培の農業への影響に関する研究を共有した。農家が有機米を輸出するためには、認証が必要で、認証基準は輸出先によって異なる。タイでは、そのほとんどが北米とヨーロッパに輸出され、生産過程を重視した認証に従い、その真正性を保証するために農業経営者に定期検査を行うように強調している。一方ラオスでは、主に輸出される中国市場の基準である残留化学物質の試験に重点を置いた製品ベースの認証を採用している。これらの2つの異なる基準は、有機米が生産国ではどのように認識され生産されているかについての一定の理解を生み出し、輸入地域とのイデオロギーの違いを浮き彫りにする。欧米では、主に環境と農民への影響に焦点が当てられているが、中国では主に消費者の健康基準に焦点が当てられている。
ディスカッションセッションでは、ゲラート教授と参加者は、各国の有機米認証のより詳細な環境への影響を理解することに関心を持っていた。ベアード教授は、ラオスの事例を共有し、米の種類の多様性が減少し、特定の在来種の米の生産が一掃されたと語った。彼は、これらの認証による環境への影響の全範囲は完全に明確なわけではないが、良い結果と悪い結果の両方をもたらすと結論付けた。
パネル03「アジアの社会生態系ガバナンス」
参加者が昼休みを取った後、社会生態学的ガバナンスシステムに焦点を当てた、3番目のその日最後のパネルが行われた。
2つのプレゼンテーションの最初のプレゼンテーションでは、国連大学サステナビリティ高等研究所(UNU-IAS)の西麻衣子博士が、医療及び芳香植物(MAPs)の持続可能なサプライチェーンの課題と機会に関する研究を共有した。これにより、前のパネルで広く議論された、環境オフショアリングにおける認証と基準の役割に関する議論が継続された。彼女は、芳香植物(MAPs)は成長しているグローバル市場であり、輸出のほとんどはヨーロッパ、アメリカ、及び日本に向けられていると説明した。芳香植物(MAPs)のソース国では、手ごろな価格の医療、生計の確保、雇用機会など、様々なメリットについて議論することができるが、これらの野性資源への圧力が環境問題を引き起こしている。それらのうちのいくつかの問題を克服するために、より持続可能なサプライチェーンを開発する方法の例として、西博士は、野生種とその生息地を社会的責任を持って管理するために適用できる、自主的な地球規模の規制フレームワークであるフェアワイルドスタンダード(FWS)の開発を示した。
オルセン博士は、このプレゼンテーションは、社会的側面と生計的側面を含めるためのより柔軟な定義から環境オフショアリングがどのように利益を得ることができるかを示す良い例であると考えた。彼は、更に、伝統的な知識システムをほとんど放棄してきた欧米が、現在芳香植物(MAPs)の主な消費者として浮上していることを興味深いと感じたが、その需要の増加が芳香植物(MAPs)を生産する人々や地域のアクセスにどのように影響するかについて懸念を示した。参加者からの質問にも懸念の声があった。西博士は自主的な持続可能性基準は、芳香植物(MAPs)にしばしば関連する文化遺産へのアクセスや、保存をしようとしているが、特定の種の搾取と環境の劣化を完全に止めることは難しいと説明した。
最後のプレゼンテーションでは、オルセン博士がプレゼンテーションを行った。彼の論文は、持続可能性に関する国際協定への政府の約束の中で見られる環境オフショアリングの断絶に言及した。持続可能な開発目標(SDGs)に関する各国のパフォーマンスの既存のランキングを調べ、それをGDP、波及効果、エコロジカルフットプリントの測定値と比較することにより、SDGランキングでパフォーマンスが高い傾向にある国は、一般的に繁栄している国であることを示した。 しかしまた、より多くの天然資源を使用し、他の国でより多くの負の社会的および環境的影響を生み出しているのもそれらの国々であった。これは、SDGsがすでに地球の多くの生物・物理学的境界を超えているため、一部の国ではSDGsを達成する可能性が高いが、世界全体では達成できない可能性があることを示唆していると彼は主張した。オルセン博士は、環境的に持続可能な活動の割り当てを含むEUのグリーンニューディール、持続可能なサプライチェーンに対するG7の取り組み、そして、より短くてより回復力のあるサプライチェーンに沿って、より地域的で季節的な製品とサービスを主張する日本における地域循環共生圏(CES)の概念など、環境オフショアリングを削減する可能性のあるいくつかの既存のイニシアチブを共有した。
ミドルトン教授は、最後の討論者として、オルセン博士があまりにも広範囲にわたる結論を引き出すことに注意することを繰り返し、これらの計算は持続不可能な実践を行う国の中の不平等も覆い隠していると付け加えた。 彼はまた、SDGsのフレームワークが最終的にどのように改善もしくは置き換えられるのかという点を挙げた。これは、Q&Aに続いて、議論の中心になった。 オルセン博士からの最後のパネルの回答と結論は、様々な地域の参加型民主主義の解決策に焦点を当てることで利益を得ることができるというものだ。 SDGsは、その欠点にもかかわらず、依然として正しい方向への一歩を表しており、フレームワーク自体の中でそれを改善する1つの方法は、不平等についてという、しばしば無視されるSDG10の重要性を強調することである。
シンポジウムの結論
短いコーヒーブレイクの後、シンポジウムはその日の結論をまとめるためのオープンパネルディスカッションで締めくくられた。パネリストは、それぞれのパネルが示したように、定義としての環境オフショアリングは多くの異なる視点からアプローチできることに同意した。また、商品の種類によっては、環境オフショアリングの結果がプラスとマイナスの様々な影響を与える可能性があり、サプライチェーンを単なる階層としてではなく相関関係で理解するという、より微妙な差異を捉えた見方が、これらの複雑さの多くをより適切に捉えるだろう、と強調した。
最後に、環境認証は環境オフショアリングを可能にする機関と見なすことができると指摘された。サプライチェーンは、自然環境についての考え方の価値観や視点に影響を与える。環境認証は将来も役割を果たす可能性が高いので、重要な次のステップは、それらの中に環境への配慮を高める方法を見つけることにある。
さらにこのシンポジウムについて知りたい方は下記のリンクを参照ください。
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